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ビルに不可欠な屋上防水 その費用と種類

2019.02.28

ビルに不可欠な屋上防水 その費用と種類

ビルの屋上は太陽の日射や雨水の影響でダメージを受けやすい場所ですので、状況をきちんと把握し定期的に補修や防水工事を行う必要があります。万が一メンテナンスを怠ると雨水が建物内に侵入し、屋上だけでなくビル全体に被害が広がってしまうことにもなりかねません。
このコラムではビルを長持ちさせるための屋上防水の必要性と種類についてお伝えしていきたいと思います。

屋上防水とは

一軒家のような勾配のある屋根とは違い、ビルの平らな陸屋根には雨がたまりやすく、防水層を作って建物の内部へ雨の侵入を防ぐ必要があります。雨が降ってしばらくしても学校やマンションの屋上に水だまりが残っているのを見かけたご経験がどなたにもあるのではないでしょうか。防水は屋根だけでなく、バルコニーや開放廊下や外階段など、雨がかかったり吹き込んだりする場所に必要で、そのような場所に防水処理をしないと建物へ簡単に水が浸入し老朽化が早まってしまいます。

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屋上防水工事を行う理由

外壁を覆うコンクリート、パネル材、コーキング材は経年劣化により、少しずつですが確実にひび割れが起こります。屋上部分に生じたひびから雨水が建物内部へ侵入し、コンクリートのひび割れや鉄筋部分の腐食、天井から雨漏りやシミができてしまうなど建物が劣化していきます。定期的なメンテナンスを怠ると、その後の改修費用が高くなる可能性があるため定期的な防水工事が必要です。

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屋上防水の種類

通常、ビルの屋上には防水処理が施されています。場所や時代によって施工の方法は様々です。代表的な防水の種類をご紹介いたします。

 

●シート防水
1.2mm~2.5mm程度の合成ゴム製やプラスチック製のシートを使用します。耐候性に優れていて伸縮性があるため施工しやすい素材です。シート状のため勾配のきつくない屋根に適しており、凹凸がある場所には向いていません。防水シートを下地に貼り付ける方法と金具で留める方法があります。耐久性や耐摩耗性があり軽度の歩行が可能です。メンテナンスがほとんど不要で、既存の防水材に被せて施工ができるため費用を抑えることができます。ただしシートの劣化が激しい場合は、シートそのものを交換するケースもあり撤去作業代が発生してしまいます。

 

●ウレタン防水
液体状のウレタン樹脂を複数回塗ります。目地(つなぎ目)がないため防水性に優れています。5年~6年毎にトップコートを再塗装することで15年程度持つと言われています。塗る回数により厚みをコントロールできるため、屋上の傷み具合により最適な防水層を作ることができ改修に向いています。下地がどんなものでもほとんど対応ができます。既存の防水層の上に重ねて塗ることができ、廃材がでにくいのも良い点です。塗膜が薄い箇所は日射や熱により劣化が生じやすく、地震や温度変化による屋上の伸縮に影響を受けて破れて亀裂の原因となることもあります。傷みやすい性質があるため物を置いたり、多くの人が歩行するような場所には不向きです。

 

●FRP防水
ガラス繊維などの強化剤で補強されたプラスチックです。防水用ポリエステル樹脂で非常に硬い防水層を形成します。屋上にある駐車場のような場所に使われている素材で重度の歩行に耐えられます。硬化速度が速いため施工に時間がかかりません。性質上、5年~8年毎にトップコートの再塗装が必要です。
デメリットとしては伸縮性がないため地震にはあまり強くないこと、プラスチック素材のため長時間の日射に弱く劣化して割れてしまうことが上げられます。施工中にガラス樹脂の飛散が発生しやすく匂いが強烈なため、工事を行う際には周辺環境に配慮する必要があります。

 

●アスファルト防水
最も古くから使用されている信頼性の高い方法です。高温に熱したアスファルトを使い、下地と防水シートを溶着させる方法です。積層型のため接合部から水が浸入しにくい特徴があります。アスファルトを加熱して溶解させる際に煙や臭気が発生するため、工事を行う際は周辺環境に配慮する必要があります。

屋上防水の価格と耐用年数・保証期間について

一般的な費用の相場と耐用年数は以下の表の通りです。ただし屋上の使い方や環境や総面積によって、費用および耐用年数は大きく異なってきますので、参考程度にご覧いただければと思います。

種類 費用/㎡ 耐用年数
シート防水 5,000~8,000円 10~15年
ウレタン防水 4,500~7,500円 10~15年
FRP防水 5,000~9,000円 8~10年
アスファルト防水 6,000~8,000円 15~20年

屋上防水工事にはメーカーと施工業者の保証が付きます。一般的に保証期間5~10年ですが防水の種類や建物用途によって期間が異なりますので事前に確認しておきましょう。自然災害や不適切な維持管理、また建物構造上の欠陥により発生した漏水被害は保証されません。

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屋上防水のタイミング

中古ビルを購入したような場合、前回の防水工事がいつ頃行われたか把握できないケースもあります。「藻や苔が生えてきた」「塗装の剥離が見られる」「表面のひび割れ」「防水層が浮いている」「ドレンや脱気筒が錆びている」といった症状が見られる場合は、注意が必要です。素人には劣化の度合いを正確に判断しにくいため、気になる症状が見られる場合は専門家に調査や点検の依頼をすると良いでしょう。

防水工事をしても雨漏りが改善されないことも

屋上の防水工事をしても雨漏りが改善されないケースも多々見受けられます。特に築年数を経たビルは、さまざまな場所で老朽化が進んでおり、雨が屋上から侵入しているとは限らないからです。屋上以外にも外廊下・外階段・バルコニーなど水が浸入する場所は多数あり、ひとつずつ工事を行い雨水の侵入経路を消していくという地道な作業が必要です。

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雨漏りの原因

建物の作り方によって雨漏りの発生しやすい原因は異なります。多くの建物に採用されているRC造とS造の雨漏りの原因について詳しく見ていきましょう。

 

●RC造(鉄筋コンクリート造)建物の漏水原因
RC造は鉄筋を組んだ後、枠型にコンクリートを流し込んで造ります。先に流し込んだコンクリートが後から流し込むコンクリートと一体にならなかった場合、つなぎ目が漏水の原因になることがあります。その部分は「コールドジョイント」と言われ、雨水が染み込み劣化が進みやすくなります。流し込んだコンクリートが隅々まで浸透せずに砂利が浮き出てしまう「ジャンカ」も雨水が浸透しやすく劣化につながります。

 

新築当初は問題が見えないケースもありますが、築年数が経過するとともに施工時の「コールドジョイント」や「ジャンカ」から劣化が進み漏水の原因になる可能性があります。またコンクリート自体は劣化しにくいというイメージが強いですが、外部からの様々な影響を受け徐々に劣化していきます。劣化の要因も様々です。少し専門的な内容ですがコンクリートという素材自体が劣化していく原因についてもご説明します。

 

①中性化による劣化
コンクリートは穴が開いていないように見えますが実は細孔空隙(さいこうくうげき)と呼ばれる小さな隙間が存在し、その中には細孔溶液(さいこうようえき)と言われる水分が存在していると言われています。大気中の二酸化炭素がコンクリート内に侵入し炭素化反応を起こすことによりこの細孔溶液のpHが低下します。pH値が11以下になると鉄筋が腐食し始め、腐食した影響で体積が2.5倍に膨張しコンクリートを押し割ってしまいます。腐食が進行することでひび割れを起こし、酸素が入りやすくなりことで更に腐食が進みひびの拡大や剥落が起こります。また腐食による鉄筋の断面欠損により、耐荷力の低下が生じます。

 

②アルカリシリカ反応による劣化
コンクリートや作る際には骨材(砂利や砂など)にセメントと水を混合します。この骨材中の成分であるシリカ成分とコンクリートのアルカリ成分が反応し、アルカリシリカゲルを生成します。アルカリシリカゲルは強力な吸水膨張性を持っており、外部からの水分供給により膨張します。アルカリシリカゲルが膨張することにより周囲のセメントが破壊され、ひび割れが累積しコンクリート表面にひび割れとして現れます。

 

③塩害による劣化
骨材とセメントと水を混合しコンクリートを生成する過程で、セメントと水が反応して水和反応を起こし水和物(すいわぶつ)となります。この水和物はアルカリ性が高く、高アルカリ性という条件下で鉄筋は不動態被膜(ふどうたいひまく)という膜を形成し錆びない状態となっていますが、飛来する海風や潮風や凍結防止剤に含まれる塩分が徐々に浸透し、コンクリート内の塩化物イオン濃度が高まることで不動態被膜が破壊され腐食が始まります。材料である骨材やセメントの硬化促進剤にも塩分が含まれていますが、一定量の濃度にならないと不動態被膜は破壊されませんので影響は少ないと言われています。

 

④凍結による劣化
コンクリート中の水分が凍結により膨張することにより発生します。外気温度や太陽の日射の影響を受けて凍結と膨張を繰り返すことによりコンクリートが劣化していきます。

 

●S造(鉄骨造)建物の漏水原因
鋼材の柱と梁をつないで骨組みを造ります。外壁には「ALC板」「サイディング」「押出成形セメント版」のようなあらかじめ工場で製作されたパネル材を使用します。パネル同士の接着に使用するコーキング材は経年劣化により硬化し建物の揺れに対応できなくなり隙間から雨水が浸入してきます。またパネル自体が劣化しひび割れから漏水するケースもあります。

百年建築の屋上防水

皆様にご紹介したいのが「百年建築の屋上防水」です。築30~50年以上の築古ビルを管理している経験上、屋上防水の目安は20年とやや長めに設定をしています。オフィスビルの屋上には室外機や電波塔など様々な設備が備えつけられていて、防水施工時に移設費として費用がかかってしまうケースもありますので、余計な費用が発生しないように計画をして配置を行います。また防水工事は大きな支出になるため、前もっての資金の準備の計画もしておきます。

防水を抑えて建物を長持ちさせましょう

ビルによって屋上の仕様や周辺環境が大きく異なるため、一概にどの防水が良いか決めることは難しいです。資産状況も考えながら、それぞれの方法を比較し適切な判断する必要があります。日頃からビルの状況を把握し前もって工法と資金の準備をしておくことが大切です。