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日本の建物寿命はなぜ短いのか|ビルの耐用年数と長寿命化の条件について

2019.07.28

日本の建物寿命はなぜ短いのか|ビルの耐用年数と長寿命化の条件について

欧州の街並みには築何百年という歴史のある建物が現役で数多く存在します。日本にも京都、奈良などに何百年も維持されている建物がありますが、欧州に比べると一部分に限られており、平均すると建物の寿命は短命です。建物の寿命は、日本が約25~30年、イギリスが約75~100年と言われている調査もあり、大きな違いが生まれています。今回の記事では、何故このような寿命の違いが発生するのか、その理由と問題点について紹介していきたいと思います。

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耐用年数とは

建築に詳しくない人でも「耐用年数」という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。建物の耐用年数とは税法上定められた寿命(法定耐用年数)のことで、建物の耐用年数は、法令では鉄筋コンクリート造(RC)が47年、鉄筋鉄骨コンクリート造(SRC)が60年と定められています。言葉だけを聞くと老朽化して使えなくなるまでの年数と捉えてしまいますが、これは減価償却費を計算するために設定した年数で、本当の建物が何年もつかどうかとは別の意味になります。RC・SRCともにコンクリート造の建物は鉄筋を被覆するコンクリートが中性化することで劣化し、強度を失うことで寿命を迎えることになります。コンクリートや建物の寿命に関わる研究は多数あり、メンテナンスをきちんと行えば100年以上は持つという見解もあります。

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築古ビルへの価値観の違い

イギリスをはじめ欧州では、古いものに抵抗感がなく、むしろ好まれているため、建物相応の価値で売買をすることができます。歴史的な建造物も多く、建物が街並みの美しさを形成しており、既存建物を資源として捉え、今後も使用するために、長持ちさせる修繕や新たな建物空間に生まれ変わらせるリノベーションが当たり前のように繰り返し行われています。一方、日本では新しい建物が好まれるため、古い建物は売買価格が下がり、年月を経過するごとに建物の価値が減ってしまうのです。そのため建物を維持していくよりも、いわゆるスクラップ&ビルドと呼ばれる、古い建物は壊し、新しい建物に建て替え、資産をバリューアップさせるという方法がスタンダードになっています。そのため維持管理に費用をかけず、場当たり的な修繕が多く行われることで、より建物の劣化が進みやすいというのが実情です。

このような価値観の違いは、建物自体の素材が違い(欧州:石・煉瓦/日本:木・土)耐久性が異なるということや地震の数が日本は圧倒的に多いという地理的な影響により生まれてきていると考えることができます。地震の少ないヨーロッパでは昔から背の高い建物が作られていましたが、地震の多い日本では平屋かあっても2階建ての木造の建物を作ってきました。

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歴史的背景による違い

ヨーロッパは他の侵略者から市民を守るために城壁を立てて、その中で支配者が市民を守り生活をしてきたため、住居が一つの地域に集中しやすく限られた敷地内に建物を建てる必要があり、背の高い建造物が統制をとられた状態で構成されていますが、日本では争いごとは武士同士の問題で、農民・商人といった一般市民は、土地の支配者が変わっても戦争に勝った支配国から隷属的な扱いを受けることはなく、住む土地も変わらないという特長があり、城壁の中で生活をする必要がありませんでした。そのため市街地が広大に広がりやすく、平面的な建物がメリハリを持たずに立っているため統一感が保たれにくいという見方もあります。話は少しそれますが、ヨーロッパには都市と都市の間は緑豊かな田園が多く、美しい風景が保たれているのは上記のような歴史的背景によるものということができます。

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最近では日本でも、建物を大切にして長持ちをさせたいという人も少し増えてきていますが、実際に長持ちさせるためには資金が必要です。しかし現在の日本では築古ビルに投資するための周りの環境が追いついていません。例えば、ローン(借入)の基準は築35年以内となっている金融機関が多く、築年数が一定の年数を経過しているものはローンを利用できず、借入期間も短期になるためビルオーナーにとっては利用しにくいという問題があります。築古ビル購入後に耐震工事や外壁補修、屋上防水といったお金のかかる修繕を行おうとするビルオーナーに対して、費用を融資する金融機関が増えないと、築古ビルの潜在的な力を出し切れないまま老朽化に耐えられず、ある時点で壊されてしまいます。景観や町並みの一部となっている建物であれば、文化的な価値も壊してしまうことになります。

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長寿命化のための条件

長寿命化にあたっては、建物を長く持たせることを前提に長期的な計画を立てて、健全に建物を運営していくことが求められます。建物情報を見える化し、外壁・屋上防水など躯体の劣化対策、給排水設備・受変電設備といった建物のライフライン対策、旧耐震基準(1981年5月31日までに許可を受けた建物)の建物の耐震対策など、建物に関わる様々な対策を行っていく必要が求められます。

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百年建築の長期修繕計画

そこで皆様にご紹介したいのが百年建築の百年改修計画です。建物が資産として築百年維持されるために必要な改修項目を設けて、築百年後までの修繕計画を策定・実行します。重要な12項目に分けて予算化し、大規模な修繕に向けてビルオーナーがあらかじめ借入計画を立てられるように数値化しています。単純に維持させるだけでなく、利益を生み出せる資産としての価値を維持できるように計画を行っています。

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ビルを長寿命化し健全な建物管理を

建物は経年により老朽化をしていきます。古い建物を壊し新しい建物を建てバリューアップをする手法は、資産価値を高めていく上で有効ですが、今までは修繕して維持していくという観点がやや不足し、スクラップ&ビルドが最善の方法であるという思想に傾きすぎているという傾向があります。経済的に成長をしていくために大量消費・大量生産だけが正しいとされる開発途上の時代から、建物や景観の文化性価値も大切にしながら、経済性も成立させるという時代へ変わってきています。築年数という数字だけで簡単に建物を壊さず、さまざまな選択肢を検討し、築古ビルを修繕しながら維持して、建物の資産価値を落とさずに行うビル経営を改めて考え直す時期に来ているのではないでしょうか。