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ビルオーナーの収入と支出|ビル経営の収益を減少させない方法

2019.08.19

ビルオーナーの収入と支出|ビル経営の収益を減少させない方法

ビルオーナーにとって賃貸ビル事業の最大の魅力は、安定した年収が確保できるということです。基本的に購入した土地と物件が残っている限り、資産価値がなくなってしまうというリスクは少なく、長期間に渡り収入を得ることができる魅力的な投資事業です。しかし10~15年後の中長期な見通しとなると悲観派が楽観派のオーナーを上回るという調査結果もあり、現在は安定的な不動産投資事業である一方、市場や景気の変化による空室リスクや、建物の老朽化に伴う家賃の下落や修繕費の増加、加えて大規模修繕や建替えに伴う資金確保など、さまざまな不安をかかえながら経営をしていると考えることができます。特に所有しているビルが1~2棟程度の場合、建替えを行う際の資金繰りは大変です。今回のコラムでは、収益性を下げずに、将来に向けて不安のないビル経営にするために、収入と支出の理解を深めていただくための内容を紹介していきたいと思います。

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ビル経営の収入を維持する

ビル経営の大きな収入減は家賃や更新料などですが、その他にもビルオーナーが受け取るさまざまな収入があります。年間に発生する主な収入の一覧を以下に示しましたので参考にしてください。

項目 支払う人 内容
家賃(賃料) 入居者 部屋の使用料
更新料 入居者 賃貸借契約を更新する際に受け取る料金
共益費/管理費 入居者 共有部や建物設備のメンテナンスに関する料金
敷金/保証金 入居者 契約時に預かっておき、室内の破損・汚損・家賃の滞納があった際に差し引く
基地局設置料 携帯電話会社 携帯電話の基地局設置料
自動販売機設置料金 飲料会社 自動販売機の設置料

●空室率を上げない適切な家賃設定
一番大きな収入源はやはり家賃収入になります。ただし家賃は高く設定すれば良いということではありません。市場価格とのバランスが悪く、入居者の不満が大きければ退去する可能性が大きくなります。退去後の空室状態が続けば、その期間は収入が全くなくなってしまいますので適正な賃料設定が必要になってきます。宅建業法に基づき国土交通省が指定した不動産流通機構「レインズ」では、近隣地域で実際に成約した取引価格をチェックすることができます。また国税庁のホームページには地域の路線に面する宅地1㎡あたりの評価額である路線価が掲載されていますので、この二つを参考にして価格設定をすると良いと言われています。空室が一つでもあると、その分収入が減りますので、満室の状態を維持できるようにしておくように適切な価格を設定しておくことが大切です。

 

●魅力的な空間を提案するためのリノベーション
従来の取引価格と路線価で価格設定をすると、地域によって標準的な価格が決まることになり、同じような立地、築年数であれば同じような価格を設定することになります。となると、競合している他物件と比較して、どこで差別化を図れば良いのでしょうか。第一に入居者が活動する時間のもっとも長い室内の快適性を向上させることが重要です。見た目のデザインはもちろん、省エネ仕様で熱効率が良く、電気代を抑えながら真夏や真冬に心地よく活動できる環境を作ることで競合物件との差別化を図ることができます。

 

●訴求力のある賃貸募集を行う
差別化を図れた部屋を用意できた際に、入居者募集のチラシ製作についても注意が必要です。仲介業者に任せきりにしてしまうとせっかくリノベーションを行った部屋でもチラシの訴求力が低く、入居者が集まりにくくなります。どのような点が競合物件と違うのか、強みとその理由をきちんと打ち出したチラシを作ることが重要です。

 

●サブ的な収入を増やす
ビルの立地にもよりますが、屋上に設置する携帯電話会社の基地局設置料なども収入の一部となります。設置業者が携帯電話のキャリアであれば毎月5~8万円程度の場所代が収入として確保することができます。手間も空室リスクもなく手軽な内容ですが、ビルオーナーから各キャリアへ持ちかけて設置された例はほとんどないようです。設置依頼の連絡を待つことになるため、積極的な活動を行えるわけではありません。また設置場所によっては建物の美観を損なう場合がありますので、注意が必要です。

 

建物の共有部に設置する自動販売機も収入源のひとつです。しかし置き場所や置き方によっては、美観を損ない衛生的ではなくなるため、入居者が集まりにくくなる可能性があります。1台あたりの収入金額はそれほど多くはなく、電気代はビルオーナー負担になります。現在はコンビニが多く存在していますので、設置する必要性があるか十分に検討してから導入したほうが良いでしょう。

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ビル経営の支出を適切に抑える

次に支出を見ていきましょう。経営において費用は抑えることが重要ですが、ビル経営においては将来的な視点を欠いて、全てコストダウンの方向性で考えてしまうと既存テナントとの関係性が悪くなったり、新規テナントが入居しにくくなったりするため注意が必要です。支出は毎年発生するものと、中長期的な期間の中で、その都度発生するものがあります。その中には大規模な修繕もありオーナーの費用負担が大きくなります。

項目 支払先 内容
減価償却費 なし 建物・設備など、耐用年数により費用として分割計上
租税公課 管轄する税務署 不動産の取得や事業に関わる税金
損害保険料 保険会社 火災保険/地震保険など建物の保険料
修繕費 都度異なる 建物の修繕費用
管理委託費 管理会社 建物の管理料(管理を委託している場合)
支払利息 金融機関 借入金の返済時の利息(ローンがある場合)
仲介手数料 仲介業者 賃貸借契約に至った際に支払う手数料
広告費 仲介業者 賃貸募集をする際の広告料
光熱費 提供業者 共有部の電気代、水道代など
交通費 都度異なる 電車代・ガソリン代・駐車場代など
交際接待費/会議費 都度異なる 仲介業者・管理会社・税理士との打合せ
通信費 都度異なる 電話代・郵便代・インターネット通信代
消耗品費 都度異なる プリンター代・印刷用紙代など

その他、20年~50年といった中長期的な期間でその都度発生する経費があります。

項目 支払先 内容
屋上防水工事 防水工事業者 屋上防水工事/20~30年に1回
外壁工事 建設会社 塗装のやり直しやタイルの張り直し/20~30年に1回
屋外階段/スチール製 塗装工事業者 塗装のやり直し/15年に1回
共有部改修 内装・設備工事会社 エントランスの老朽化対策/25~50年に1回
室内改修 内装・設備工事会社 各部屋のリノベーション(陳腐化対策)
耐震補強 建設会社

主にS56/5/31までに建築許可を受けた旧耐震の建物で耐震補強が必要な建物を補強する工事

給排水設備更新 設備会社 給水主管・排水枝管の更新/25~50年に1回
電機設備 設備会社 キュービクル取替・塗装/25~50年に1回
エレベーター改修 エレベーター会社 主要装置リニューアル/25年に1回

●ビル経営にとって適切な修繕とは何か
大きなポイントとなるのは修繕費です。建物の修繕には小中規模のものから大規模のものまで様々ですが、現在のビル経営においては場当たり的な修繕が多く、中長期的な視点が欠けている傾向があります。建物は躯体(SRC造・RC造・ALC造)、大型設備(給排水・受変電設備・エレベーター)、中小設備(室内の電気・水道・空調)といった各構造体がお互いに関与しながら成り立っているため、一つのパートのメリットだけで修繕費を抑え過ぎたり、施工時期を決めると、後々余計な費用や手間が発生してしまいトータルで見るとマイナスになるケースが少なくありません。

 

●例)部屋のリノベーション
例えば部屋のリノベーションは、室内の快適性を向上させ、入居者を募集する際や、入居者に継続して利用してもらうために必要な経費になりますが、リフォーム会社の言いなりに改修を進めてしまうと費用ばかりがかかり、気を付けないと費用対効果が得られずあっという間に赤字になっているということがあります。建物経営における部屋のリノベーションは自宅のそれとは性質が異なります。ほとんどの部屋は、入居者の入替るタイミングがあり、原状回復工事が発生します。その際の費用も考えて、経年劣化が目立ちにくく簡易に補修ができる素材を採用することや、工事が進めやすい設計にしておくことが重要です。簡易に補修できる仕様にしておけば、修繕費用を抑えながら綺麗な室内を維持することができ、空室が発生しにくい状態を保つことができます。自分自身で判断することが難しい場合は建築士などの専門家へ相談するのも良いでしょう。

 

●too much(過度)な設備投資は止め、大規模修繕に向け積立する
これは部屋のリノベーションだけの問題でなく、ほとんどの他の設備にも言えることです。工事を請け負う会社は当然ながら、最新の設備を導入したいと考えます。しかしながら建物を維持し費用対効果を生み出していくという観点からはtoo much(過度)な設備である場合が少なからず見受けられます。各設備の仕組みについて勉強しておくことはもちろん、建物経営の考え方やコンセプトを、工事を請け負う会社へ伝え、情報共有をしておくことが大切です。

 

中小規模の修繕とは異なり、上記で示したような20年~50年といった中長期的な期間で発生する修繕は資金が必要になります。エレベーター改修や屋上防水などは、建物を維持していくためには欠かせませんが、数百万~数千万かかる改修がほとんどです。資金を積立(貯金)しておく、金融機関に融資をしてもらうための準備を進めておくなど、長期修繕計画を作成し、事前に計画し把握しておくことが大切です。老朽化にともない行う修繕工事の内容は増えていきますが、これについても各メーカーのtoo muchな提案に惑わされないように知識を蓄えておく必要があります。

 

●金利を抑える
外壁補修やエレベーター改修など数千万円かかる大規模修繕では、金融機関から借入をするケースが出てきます。金利が数%違うだけで支払う利息に大きな違いが出てきます。銀行が1社だけの付き合いだと金利の比較や交渉を進めにくくなりますので、お付き合いをする銀行は複数あると良いでしょう。

百年建築のビル経営

百年建築のビル経営は、建物の専門家集団である百年建築コミッティーの知見を活かし、それぞれのビルにあった修繕計画を立案しています。ビル全体の状況を把握し、築百年後までの改修計画を策定し実行いたします。収益を落さずにビルを維持するためには、さまざまな観点からから仕様を検討しなければなりません。不足しがちな建物の構造や経営に関する知見・ノウハウをビルオーナーに提供し、ビル経営をサポートします。本業の仕事はサラリーマンをしていて、ビル経営に関して時間が取れないビルオーナーにもお勧めです。

 

百年建築の修繕計画は、一時的な利益を増やすために費用を圧縮することはいたしません。また、必要以上の修繕を行うこともありません。新築ビルのような最新の設備を投入することは老朽化したビルにとっては正しい投資ではないと考えています。古いビルには古いビルに適した設備や修繕があるため、過度な投資をせずに、築古ビルが維持していくために適切な費用をかけることが大切です。私たちはビルが古くなっても長期的に継続して利益を生み出せるビル経営を目指しています。

 

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オーナーが主体となり健全なビル経営を

ビルオーナーに比べて設備会社・リフォーム会社・仲介業者などは建物に関する知識が多いため、オーナーは相手の言いなりになってしまう傾向があります。しかし、ビル全体の状態を細かく把握できるのはビルオーナーになりますので、オーナーが主体となり適切な対応をすることが求められています。ビルを健全に経営できていれば、いざというときにも資産価値を下げずに売却することができます。今回のコラムをビル経営にお役立ていただければ幸いです。